20年前、「オープンスタンダードは断片化を防ぐだけでなく機会を創出する」というシンプルな信念のもと、少数の先駆的な企業が協力してOpenRTB標準を開発しました。
そして、その賭けは成功しました。OpenRTBは、競争とイノベーションを基盤とした7500億ドル規模の産業を創出し、デジタル広告の仕組みを変革しました。
そして今、私たちは新たな転換点を迎えています。
PubMaticは10月15日、OpenRTB創設グループの中の唯一の企業として、新たなイニシアチブを共同設立しました。それは、業界のAIリーダー企業数社と共に立ち上げたAd Context Protocol(AdCP)です。AdCPは、デジタル広告におけるAIエージェント通信のオープンスタンダードであり、次世代のプログラマティック広告の重要な基盤となります。
OpenRTBがデジタル広告のトランザクションレイヤーを対象とするのとは異なり、AdCPは広告ワークフロー全体(キャンペーンプランニングやオーディエンス戦略から、実行、最適化、測定まで)を標準化する可能性を秘めています。
プログラマティック広告に20年近く携わってきた私は、重要な局面を見極めることを学んできました。そして、今がまさにその局面です。業界として今私たちが下す決断が、AIエージェントに対応するエージェンティック広告の未来がオープンなものになるか、それともクローズドなものになるかを決めるのです。
エージェンティック広告の時代はすでに到来
広告キャンペーンの計画、交渉、実行を自律的に行うシステムであるAIエージェントの開発は、業界全体で既に進行中です。主要プラットフォームはみな、オーディエンスターゲティングからキャンペーン最適化まで、あらゆる管理にAIを導入しています。PubMaticでは、複数企業が連携することで何が可能になるかを示す、オープンなエージェント間ソリューションを構築しています。
問題は、エージェンティック広告が実現するかどうかではありません。この変革が、オープンで相互運用可能な標準を通じて実現されるのか、あるいは私たちが長年かけてオープン化を試みてきたブラックボックス型エコシステムを再現するプロプライエタリなシステムを通じて実現されるのか、ということです。
AdCPは、この問題に対する業界からの解答なのです。
アクティベーションを超えて:ワークフロー全体の標準化
OpenRTBは革新的でしたが、広告ライフサイクルの一部だけ、つまりトランザクションのみに対応するものでした。その対応も限られており、インベントリオブジェクト、広告キャンペーン、パフォーマンスKPIなどは扱えません。インプレッションと入札以外はすべて手作業で処理されます。プランニング(RFIドキュメント)、最適化(スプレッドシート)、測定(ログファイル)は、依然として断片的で手作業のままなのです。
エージェンティックAIはこうした現状を変えます。私たちは初めて、エージェント間のワークフロー全体にわたるコミュニケーション方法を標準化できるようになります。プランニングエージェントはパブリッシャーエージェントと連携して、キャンペーン開始前に最適なインベントリを選定できます。最適化エージェントは、パフォーマンスシグナルに基づいてリアルタイムに交渉できます。測定エージェントは、標準化されたインターフェースを通じて結果を集約し、プロプライエタリなブラックボックスを介さずに統一されたアトリビューションを提供できます。
こうした未来を約束するAdCPは、トランザクションの標準化だけでなく、エージェントが各ステージで用いる言語も標準化します。そうした効率性の向上は大変革をもたらすでしょう。
パブリッシャーが今すぐ行動すべき理由
率直に言って、AdCPから最も恩恵を受けるのはパブリッシャーです。だからこそ、パブリッシャーはAdCPの改良と普及を支援すべきです。
今日のプログラマティックエコシステムにおいて、パブリッシャーはインベントリを収益化するために数十ものツールを駆使しています。それぞれの仲介によって利益の一部が差し引かれ、それぞれのホップがシグナルを曖昧にします。パブリッシャーは文化を創造するコンテンツを所有しているにもかかわらず、コンテンツをコントロールする能力は非常に限られているのです。
エージェンティックAIには、この状況を悪化させる、あるいは実際に改善する、どちらの可能性もあるでしょう。広告主が特定のプラットフォームでしか機能しないプロプライエタリなエージェントを導入すれば、パブリッシャーは力を失い、オープンインターネットは後退してしまいます。しかし、オープンスタンダードであれば、パブリッシャーはプラットフォームを問わず、あらゆるバイヤーにアクセス可能なまま、コントロールを維持できます。
今まさに選択が迫られています。AdCPのガバナンスは、最初からパブリッシャーを交えて設計されています。パブリッシャーおよびパートナー各社が主導権を握ることができるよう、技術仕様は現在も改良が進められています。
インフラの課題
ここで業界の理解が欠かせないのは、AdCPを導入するには、単にプロトコルを採用するだけでは不十分だという点です。エージェンティック広告の未来には、根本的に異なるインフラが必要になります。
Dell Technologiesのインフラ専門家によると、エージェンティックAIシステムは、生成AIシステムの20~30倍の計算処理能力を必要とします。そして、その生成AIシステムにも、現在のプログラマティックシステムよりはるかに多くの計算処理能力が必要なのです。これは単なるマイナーなアップグレードではなく、根本的な変革です。大半のレガシープラットフォームは既に苦戦を強いられています。多くのプラットフォームは、現在のデータ量に対応できないので、確率的入札に頼り、利用可能なインプレッションのほんの一部しか処理していません。エージェンティックAIが本格的に展開すると、この差は大きなギャップになるでしょう。
5年前、PubMaticはこの変化を予見していました。だからこそ当社はNVIDIAと提携してインフラを根本から再構築し、業界初の大規模なGPUアクセラレーテッド・プログラマティックプラットフォームを生み出したのです。
このインフラは、すべてのインプレッションをリアルタイムで処理するダイレクト接続技術であるActivateソリューションに活用されています。 AdCPが実現する高速なエージェント間通信をサポートするよう設計されており、多くの既存システムを制限するレイテンシの制約なしに、エージェンティック広告のコンピューティング需要に対応します。
だからこそ、PubMaticはAdCPの共同創設者として唯一無二の立場にあると言えます。当社にはプロトコルの動作を実証するためのインフラがあります。OpenRTBのパイオニアとして培った深い専門知識、何十年にもわたるパートナーシップ、そしてオープンスタンダードは単一の企業だけでは実現できないほど大きな価値を生み出すという確信があります。
PubMaticが単なる参加者としてではなく、全力でAdCPに取り組んでいるのは、ほかの企業や組織がその上に構築できる基盤として貢献するためです。AdCP標準はオープンで、利用する機会は共有されます。そして私たちには、業界が共に構築することで何が可能になるかを示す準備ができています。
競争には協業が必要
健全な市場の根幹にはパラドックスがあります。それは、価値のある競争が実現するには、その基盤に協業が不可欠だということです。
そしてそのことが、デジタルインフラの構築を魅力的なものにしています。今日のライバルが、明日にはイノベーションに協力する仲間になります。このダイナミクス、つまり標準に関する協業と実行における競争こそが、真のイノベーションを推進するのです。
AdCPも同じ理念を追求しています。ビジネスモデルや製品の機能を規定するのではなく、コミュニケーションレイヤーを構築します。企業がそのレイヤー上にどのように構築し、どのようなエージェントを作成し、どのような価値を提供するか――そこに競争が生まれます。それこそが、最高のテクノロジーが勝利する市場環境です。
私たちはこの変化をリアルタイムで目の当たりにしています。最近の規制措置が浮き彫りにしている根本的な真実は、市場がオープンで真に競争的である時こそが、最も効果的に機能するというものです。囲い込みを招くプロプライエタリな標準では、この目標を達成できません。オープンプロトコルこそが目標を達成できるのです。
AdCPの構築にぜひご参加を
パブリッシャー各社にとって、今が参加の好機です。PubMaticは、AdCPを理解して開発に関与することに関心のあるすべてのパブリッシャーを歓迎します。私たちが技術的アプローチをオープンに共有しているのは、上げ潮がすべての船を浮かべるのと同じで、AdCPはエコシステム全体に貢献してこそ成功すると確信しているからです。
広告主、プラットフォーム、技術プロバイダーの各社にも、同じ招待が適用されます。AdCPはオープンソースで、ドキュメントは公開されており、今すぐ構築を開始できます。選択肢は、標準化の策定に寄与するか、それとも自社の意見が反映されないまま策定された標準に合わせるのかの2つです。
エージェンティック広告の未来は今まさに構築されつつあります。OpenRTBが私たちにもたらした教訓があります。それは、早期に活動を開始し、基盤に貢献して、標準化の実現に向け協力しながらも実行力で競争する企業こそが、新時代において成功するということです。
PubMaticはAdCPの立ち上げ当初から参加しており、再びこの場にいられることを誇りに思います。
共に未来を築いていきましょう。
AdCPについて詳しくはadcontextprotocol.orgをご覧ください。意見交換へのご参加をお待ちしています。
