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By Ken Aihara
February 12, 2025

このブログ投稿はExchangeWire Japanに掲載された内容です。

オープンインターネットの危機がささやかれるようになってから久しい。オープンインターネットが衰退するとどのような問題があるのか。世のパブリッシャーたちはいかに戦うべきなのか。グローバル大手SSPであるPubMaticのカントリーマネージャーに昨年3月に就任した粟飯原氏に話を聞いた。

打ち手はまだまだ残されている

自己紹介をお願いします。

PubMatic Japanのカントリーマネージャーを務める粟飯原 健と申します。前職では電通にてデジタルおよびテレビ事業などのチームを率いていました。2021年にPubMaticに入社し、2024年3月より現職に就いています。

 

―現職に就任されてからの約1年を振り返っていただけますか。

着任後、半年掛からずに業績を軌道に乗せることが出来ました。何を目指しているのか、どのように実現しようとしているのか、それを達成したら何を得られるのかなど、ひとりひとりのコミットメントを引き出しながら、強いチーム作りから始めました。幸い、直ぐに成果が出て、組織としての自信が付いてきたように思います。

一方でオンライン広告業界全体としては、オープンインターネット市場を取り巻く環境は依然として厳しいままです。2025年以降は市場全体の活性化に向けた取り組みを強化していきたいと考えています。

 

―多くのパブリッシャーが収益低下に苦しむ中で、SSPである貴社が一定の業績を残すことができた要因は何だと思いますか。

一つには、動画およびCTVの広告在庫を広告主または広告代理店から直接的に購入するためのサプライパス最適化(SPO)ソリューションにおいて複数の大型契約を締結できたことが挙げられます。

さらには主要取引先となるパブリッシャー様のメディア開発が成功した点も大きかったです。近年注目されているアテンション指標なども取り入れつつ、広告の位置や表示方法などを細かく調整することで収益向上を実現しました。

 

歪んだ市場構造の背景にある問題とは

―オープンインターネットが苦戦している主な原因は何だと思いますか。

The Trade DeskとKantarが実施した調査によると、日本の消費者は、デジタルに費やす時間の61%をオープンインターネットに費やしています。しかしながら、APAC市場全体においてオープンインターネットに費やす広告費は21%に過ぎません。本来であれば広告費と視聴時間は同等の割合になるべきはずなのに、歪みが生じているわけです。

私としては、とりわけ動画広告に関して、ウォールドガーデンと大手広告代理店が強固な関係を結んでいることが背景にあると考えています。前職では、それらメディアの担当責任者でもあったのでウォールドガーデンが日本にサービスインした前後の状況も良く理解しています。当時、地上波テレビが強く、その手の動画広告などは、ほとんど売れない状況でした。そこを広告代理店が注力し今の関係性を築いてきました。その流れが今も継続していることがウォールドガーデン依存が高い理由のひとつであると考えます。この状況を是正すべきだと考えます。

 

―状況を是正するためには具体的にどのような取り組みが考えられますか。

日本市場においては、主要な業界団体の理事を大手広告代理店やメガプラットフォーマーの関係者が務めている例が多く見受けられます。こうした場にオープンインターネット事業者も積極的に関与し、自ら情報を発信していかなければなりません。

また「オープンインターネットは危険である」という間違った認識が一部で広がってしまった点も問題です。オープンインターネットという用語から有象無象のサイトを想起し、あたかも象徴的な問題であるかのようにすり替えられているような気がします。

実際にはプレミアムパブリッシャーでは不正はまず起こり得ず、また当社を始めとするオープンインターネット事業者はセーフリストや配信除外リストなどを活用して不適切なサイトや不正から守るための仕組みを有しています。

一方でウォールドガーデンにおいてもアドフラウドは発生していますし、著作権侵害コンテンツと前後してナショナルクライアントの広告が出てしまう事例が後を絶ちません。オープンインターネットだから、またはウォールドガーデンだから安全または危険という話ではないと思います。

 

広告とは長期的な投資行為

―アテンション指標やMMMといった新たな効果指標が注目されるなど、近年では広告効果測定のあり方についての議論が高まっています。

これまではPV、CPM、CPCといった短期的な指標があまりに過剰に重んじられてきたと思います。その場限りの結果だけを追い続けてしまっているのではないでしょうか。

もちろんタイムセールなど短期的な結果を出すことを目的とするキャンペーンも存在します。また単一的かつ短期的なKPIを達成することを目標として課されている業務担当者も多くいるでしょう。

しかしながら、広告とは長期的な投資行為です。ミネラルウォーターもハイブリッド自動車も、10年単位の広告活動を経て、日本市場を開拓してきました。広告事業を扱う上層部がコンテンツやオーディエンスの価値を多面的ないし複合的に評価した上で現場管理をしていく必要があります。

 

―長期的な広告効果を計測する上ではどのような効果指標が適切だと思いますか。

企業によって事業やキャンペーンの目的は様々であり、また広告とは結局のところ人間の気持ちや欲求を扱うので、決め手となる単一的な指標を生み出すのは難しいでしょう。それよりも、いずれはAIが様々な指標を統合して比較検証をしながら自律的にPDCAを回していくようになるかもしれません。ただし、その場合、PDCAサイクルの過程はブラックボックス化してしまう可能性はあります。

 

―Cookieレスが進行すると、Cookie以外の情報を豊富に持つウォールドガーデンへの依存率はさらに高まると予測されています。

サードパーティCookie廃止が一旦取りやめになったことで安堵したとの声も耳にしますが、これまでCookieレス対応を最優先に開発資源を割いてきたDSP事業者は相当に困っているようです。このようにスケジュールが頻繁に変更されるのは決して望ましい状況ではありません。

また一部の大手広告プラットフォームが視聴データの外部利用を認めていないことについては強い問題意識を持っています。大手であればこそ、横綱相撲というか、正々堂々と情報開示すべきです。

しかもそうした大手広告プラットフォームは、厳しい規制が課されている市場では視聴データを開示しているのです。日本の広告費が海外に流出しているという点を鑑みても、日本においても当局による規制が必要ではないでしょうか。

一方で、パブリッシャーがウォールドガーデン以外に取れる対策についても注目すべきです。PubMaticでは2024年にホワイトペーパー「新たなデジタル環境におけるアドレサビリティ」を作成しました。パブリッシャーに役立つ戦略を大きく5つに分けて紹介しています。ファーストパーティーデータの活用や広告フォーマットの柔軟な運用など、収益化の手段はあるように思います。

市場全体の活性化に向けた取り組みを進めながらキャンペーンごとの課題をパブリッシャーの皆さんと一緒に解決しながら収益向上に向けた努力をしていきたいと思っています。

 

―オープンインターネットの活性化に向けての意気込みを聞かせてください。

プレミアムパブリッシャーは、正確な情報を国民に伝えるという重要な役割を担っています。広告費を正当に得られなければその役割を果たすことができなくなり、ひいては国民の情報リテラシーが下がって経済活動全体に悪影響を与えかねません。

また結局のところ、ウォールドガーデンへの出稿は予約型広告とあまり変わらないようにプログラマティック広告風に運用しているだけで、プログラマティック広告の基本に対する理解が十分ではありません。

そこでオープンインターネットの活性化を目指して、当社ではプログラマティック広告の勉強会を随時開催しています。こうした勉強会やSPO取引を通じて広告主様や広告代理店様の要望を直接的に汲み取りながら、引き続きパブリッシャー様のメディア開発支援を通じて収益向上を図っていきたいと思います。